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【2026年10月義務化】カスハラとは?企業が対応すべき対策を社労士が解説(2026.8.26)

「お客様から長時間にわたって怒鳴られた」

「従業員が土下座を要求された」
「電話で何度説明しても、同じ要求を繰り返される」

このような顧客等からの著しい迷惑行為、いわゆる「カスハラ(カスタマーハラスメント)」への対応は、企業にとって重要な労務管理上の課題となっています。

そして、2026年(令和8年)10月1日から、改正労働施策総合推進法により、カスタマーハラスメント対策が事業主の義務になります。

対象となるのは一部の大企業だけではありません。中小企業を含むすべての事業主が、法律と厚生労働省の指針に沿って必要な措置を講じる必要があります。

そこで本記事では、カスハラとは何か、通常のクレームと何が違うのか、企業にどのような対応が求められるのかについて、2026年10月から適用される制度を踏まえて解説します。

カスハラとは「カスタマーハラスメント」の略称です。

2026年10月1日から適用される厚生労働省の「カスタマーハラスメント防止指針」では、職場におけるカスタマーハラスメントについて、大きく次の3つの要素をすべて満たすものとしています。

  1. 顧客等の言動であること

  2. 労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものであること

  3. その言動によって労働者の就業環境が害されること

ここでいう「顧客等」は、商品を購入したお客様だけを意味するものではありません。

顧客や取引先の担当者、施設の利用者やその家族、問い合わせをする人、施設の近隣住民など、事業に関係する幅広い人が対象となり得ます。

また、店舗などで直接行われる言動だけでなく、電話やSNSなどインターネット上で行われるものも対象です。

どこからがカスハラ?通常のクレームとの違い

企業が特に注意したいのが、「クレーム=カスハラ」ではないという点です。

商品に不具合があったため交換を求める、サービス上の問題について改善を求めるなど、社会通念上許容される範囲で行われる正当な申入れはカスハラには該当しません。

そのため企業側が「従業員が不快に感じたからカスハラ」と一律に判断することも適切ではありません。

カスハラに該当するかを考える際には、要求の内容だけでなく、

  • 言動の目的

  • 問題が発生した経緯や状況

  • 企業・従業員側に問題がなかったか

  • 業種・業態

  • 業務の内容や性質

  • 言動の態様、頻度、継続性

  • 従業員の心身の状況

  • 顧客等と従業員との関係性

などを踏まえて総合的に判断することが重要です。

「正当なクレームには真摯に対応する。一方で、社会通念上許容される範囲を超えた言動からは従業員を守る」という線引きが企業には求められます。

カスハラに該当し得る具体例

厚生労働省の指針では、社会通念上許容される範囲を超えた言動の典型例が示されています。

たとえば、次のようなケースです。

暴行などの身体的な攻撃

従業員を殴る、蹴る、叩く、物を投げつける、つばを吐きかけるといった行為です。

脅迫・中傷・暴言などの精神的な攻撃

従業員に対する侮辱や暴言、脅迫、名誉毀損、土下座の強要などが挙げられます。

「SNSに悪評を書き込む」などと告げて従業員を脅すケースについても注意が必要です。

商品・サービスと関係のない要求

性的な要求や従業員のプライバシーに関する要求など、そもそも商品・サービスと関係のない要求が該当し得ます。

契約内容を著しく超える要求

本来の契約内容を大きく超えたサービスを要求するなどのケースです。

不当な金銭要求

商品やサービスの内容と無関係な損害賠償を要求するなど、不当な金銭要求もカスハラに該当する可能性があります。

ただし、実際にカスハラに該当するかどうかは、個々の事情によって判断が異なります。

企業としては具体例を社内で共有するとともに、**「現場の従業員だけで判断させない仕組み」**を作ることが重要です。

2026年10月1日からカスハラ対策が企業に義務化

2025年(令和7年)6月に労働施策総合推進法等が改正され、2026年(令和8年)10月1日から、事業主にはカスタマーハラスメントを防止するために必要な雇用管理上の措置を講じることが義務付けられます。

「カスハラが発生してから考える」のではなく、発生する前から会社として対応方針や相談体制などを整えておくことが必要になります。

特に重要なのは、次の対策です。

企業に義務付けられるカスハラ対策

1.会社としての基本方針を明確にする

まず必要なのが、カスハラには毅然とした態度で対応し、従業員を保護するという会社の方針を明確にすることです。

そして、その方針を経営者や人事担当者だけが理解するのではなく、管理監督者を含む従業員に周知・啓発する必要があります。

たとえば、社内規程や社内報、イントラネットなどへの掲載、研修の実施などが考えられます。

経営者自身がトップメッセージとして「会社として従業員を守る」と発信する方法もあります。

2.カスハラ発生時の対応ルールを決める

カスハラが発生したときに、従業員がその場で判断し続ける状態は避けなければなりません。

「誰に報告するのか」
「どの段階で上司に交代するのか」
「電話対応を終了する基準は何か」
「警察や弁護士へ相談するのはどのようなケースか」

といった対応方法をあらかじめ決め、従業員に周知しておくことが重要です。

厚生労働省の指針では、可能な限り従業員を一人で対応させないことや、必要に応じて管理監督者等が代わって対応することなども例示されています。

3.相談窓口を設置する

従業員がカスハラ被害を受けた場合に相談できる相談窓口をあらかじめ定め、従業員に周知することも必要です。

既存のパワハラ・セクハラ等のハラスメント相談窓口と一体的に設置する方法も考えられます。

大切なのは、窓口を形式的に作るだけではありません。

実際に相談があったときに適切に対応できるよう、担当者への研修や対応マニュアルの作成、関係部署との連携体制などを整備する必要があります。

また、「カスハラかどうか判断できないから相談できない」という状態を避けることも重要です。カスハラに該当するか微妙な場合や、発生するおそれがある段階でも広く相談できる体制が求められています。

4.発生後は迅速に事実確認を行う

カスハラに関する相談があった場合には、企業は事実関係を迅速かつ正確に確認する必要があります。

相談した従業員から事情を聞くだけでなく、必要に応じて、

  • 周囲の従業員への聞き取り

  • 電話の録音

  • 防犯カメラ等の録画

  • メールやSNS等の記録

などの客観的な資料を確認することも考えられます。

ただし、録音・録画等を取り扱う際には、個人情報保護法などへの配慮も必要です。

5.被害を受けた従業員を保護する

カスハラが確認された場合には、速やかに被害を受けた従業員への配慮を行います。

たとえば、

  • 上司などが従業員に代わって顧客対応を行う

  • 被害者と行為者を引き離す

  • 担当者を変更する

  • 複数人で対応する

  • 必要に応じてメンタルヘルス面の相談対応を行う

といった方法が考えられます。

暴行・傷害・脅迫など犯罪に該当する可能性がある場合には、警察への通報も検討します。法的対応が必要であれば、弁護士等との連携も必要になります。

6.再発防止策を講じる

一度対応して終わりではありません。

発生したカスハラの原因や背景を確認し、必要に応じて対応マニュアルや社内体制を見直します。

また、商品・サービスや接客方法、顧客とのコミュニケーションに問題があった場合には、それ自体を改善することも重要です。

事案や対応経緯を適切に記録し、個人情報の取扱いに注意しながら社内で共有することも、再発防止につながります。

7.悪質なカスハラへの対応方針を決める

2026年10月からの指針では、特に悪質なカスハラへの対応についても重要な措置が示されています。

企業は、過度な要求を繰り返すなど特に悪質と考えられる行為への対処方針をあらかじめ決め、従業員に周知するとともに、実際に対処できる体制を整備する必要があります。

具体的には、状況に応じて、

  • 警察への通報

  • 行為者への警告

  • 法令の範囲内で商品販売・サービス提供を行わない

  • 店舗・施設への出入りを禁止する

  • 必要な法的措置を検討する

などが考えられます。

ただし、実際にどこまで対応できるかは業種・契約関係・関係法令等によって異なるため、自社の業態に合わせたルール設計が必要です。

相談した従業員への不利益な取扱いにも注意

カスハラを受けた従業員が勇気を出して会社に相談したにもかかわらず、

「面倒を起こしたから担当を外す」
「顧客から嫌われたから評価を下げる」

などの扱いを受けるようでは、相談制度が機能しません。

そのため、カスハラについて相談したことや事実確認に協力したことなどを理由として、解雇その他の不利益な取扱いをしてはなりません。

企業はその旨を定め、従業員に周知・啓発する必要があります。

相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じることも必要です。

カスハラ対策は「マニュアルを作って終わり」ではない

カスハラ対策というと、「マニュアルを1冊作ればいい」と考えてしまう企業もあるかもしれません。

しかし、実務ではそれだけでは十分とはいえません。

たとえば電話で顧客から長時間怒鳴られている従業員がいたとします。

マニュアルに「悪質な場合は上司へ報告する」と書いてあっても、

「何分くらいで交代していいのか」
「どんな言葉が出たら上司を呼ぶのか」
「上司はどこまで対応するのか」
「どの時点で電話を終了してよいのか」

が現場で共有されていなければ、従業員は結局その場で悩むことになります。

重要なのは、自社で実際に起こり得るケースを想定してルールを具体化することです。

就業規則も見直したほうがよい?

カスハラ対策の義務化に合わせて、就業規則や社内規程も確認しておくことをおすすめします。

特に確認したいのは、

  • カスハラに対する会社の基本方針

  • 相談窓口

  • 相談・事実確認への協力等を理由とする不利益取扱いの禁止

  • 相談者等のプライバシー保護

  • 従業員が他社の従業員等にカスハラを行わないためのルール

  • 顧客対応・エスカレーションのルール

などです。

ただし、すべての内容を必ず就業規則本文に盛り込まなければならない、という意味ではありません。

就業規則、ハラスメント防止規程、カスハラ対応マニュアルなどをどのように組み合わせるかは、会社の規模や業種、既存規程の内容によって検討する必要があります。

中小企業も2026年10月1日から対応が必要

「うちは従業員が少ないから対象外では?」と思われる経営者の方もいるかもしれません。

しかし、今回のカスタマーハラスメント対策は、中小企業を含むすべての事業主が対象です。

特に人員の少ない企業では、一人の従業員が顧客対応を抱え込んでしまいやすく、相談窓口と現場責任者が同一人物になることも考えられます。

だからこそ、

「担当者で解決できなければ誰に報告するか」
「経営者が対応する基準は何か」
「社内だけで解決できない場合、誰に相談するか」

まで決めておくことが重要です。

企業が施行までに準備しておきたいこと

2026年10月1日の施行に向けて、まだ準備をしていない企業は、少なくとも次の項目を確認しておきましょう。

  • 自社で発生しやすいカスハラの洗い出し

  • カスハラに対する会社方針の策定

  • 従業員への方針の周知

  • 現場での対応基準・エスカレーションルールの作成

  • 相談窓口・相談担当者の決定

  • 相談担当者が適切に対応できる体制の整備

  • 事実確認の方法・記録方法の決定

  • 被害を受けた従業員の保護体制の整備

  • 悪質なケースへの対応方針の策定

  • プライバシー保護措置の整備

  • 相談等を理由とする不利益取扱いをしない旨の周知

  • 就業規則・社内規程・マニュアルの確認

  • 管理職・従業員への研修

ポイントは、法律上必要な項目を形式的に整えるだけではなく、実際にカスハラが発生した瞬間に機能する仕組みにしておくことです。

カスハラ対策について社労士に相談するメリット

カスハラ対策では、「何がカスハラなのか」という判断基準だけでなく、従業員を守るための労務管理体制を整える必要があります。

社会保険労務士には、たとえば、

  • カスハラ対策に関する社内体制の整備

  • ハラスメント相談体制の構築

  • 就業規則・社内規程の確認、整備

  • カスハラ対応方針・社内ルールの作成支援

  • 管理職・従業員向け研修

  • 発生後の労務管理上の対応に関する助言

などを相談することができます。

一方、犯罪行為への対応や顧客との法的紛争、損害賠償請求など、個別の法律事件については弁護士との連携が必要となる場合があります。

社労士・弁護士など、それぞれの専門領域を踏まえて適切に連携することが重要です。

まとめ|2026年10月の義務化前にカスハラ対策を進めましょう

2026年10月1日から、カスタマーハラスメント対策が事業主の義務となります。

カスハラ対策で重要なのは、単に「お客様に強く言い返すこと」ではありません。

正当な申入れには適切に対応しながら、社会通念上許容される範囲を超えた言動については組織として対応し、従業員を一人で抱え込ませない体制を構築することが重要です。

施行直前になって慌てることがないよう、会社の方針、相談窓口、対応マニュアル、就業規則・社内規程、研修などを早めに確認しておきましょう。

当事務所では、企業の実情に応じたカスハラ対策の社内体制整備、就業規則・各種規程の見直し、相談窓口体制の整備、従業員研修等についてご相談を承っております。

「何から準備すればよいかわからない」
「現在の就業規則やマニュアルで対応できるか確認したい」
「自社の業種に合ったカスハラ対応ルールを作りたい」

という企業様は、お気軽にご相談ください。

※本記事は2026年8月26日時点の法令・厚生労働省公表資料をもとに一般的な情報を解説したものです。個別事案については、具体的な事実関係や業種、契約関係等によって対応が異なる場合があります。

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