変形労働時間制の勤務表、確定後に変更しても大丈夫?(2026.10.31)
休日振替の成立要件と、残業代・休業手当の考え方を分かりやすく解説
「別の日を休ませれば、残業代は発生しない」と考えていませんか。1か月単位の変形労働時間制では、休日の入替えが適法でも、時間外労働の割増賃金が必要になる場合があります。
1.1か月単位の変形労働時間制とは
1か月以内の一定期間を平均して週40時間(一定の特例措置対象事業場では44時間)の範囲に収め、あらかじめ特定した日・週に法定労働時間を超える所定労働時間を設定できる制度です。変形期間が始まる前に、各日・各週の労働時間を特定する必要があります。
2.適法な振替休日に必要なこと
休日を別の勤務日と事前に入れ替える「振替休日」には、次の点を確認します。
① 就業規則等に、休日を振り替えることができる根拠・手続がある。
② どの休日を出勤日にし、どの勤務日を休日にするかを事前に具体的に指定する。
③ 対象者に事前に通知する(厚生労働省モデル就業規則は前日までの通知を示しています)。
④ 週1日または4週4日の法定休日を確保し、できるだけ近い日に振り替える。
⑤ 個別の労働契約や就業規則との整合性を確認する。
例
土曜日の勤務前に「土曜を出勤日、木曜を休日」と指定・通知する場合は振替休日の問題です。土曜に働いた後で木曜を休みにすると決めた場合は、原則として「代休」の問題になります。
3.休日を振り替えても残業代が必要になる例
【例A:週をまたぐ振替】
当初、月~金の各8時間勤務・土日休みの週に、土曜日8時間勤務を追加し、翌週に振替休日を設けた場合、出勤した週は48時間です。週40時間を超える8時間は、原則として法定時間外労働です。翌週に休んでも、この割増賃金は消えません。
【例B:10時間勤務日との入替え】
変形期間開始前に月曜10時間勤務、土曜休日と特定していた場合、月曜を休みにして土曜に10時間働いても、土曜が自動的に「割増なしの10時間勤務日」になるわけではありません。土曜の8時間を超える2時間など、当初の特定に基づいて法定時間外労働を判定します。
時給1,500円で法定時間外労働が2時間発生し、通常賃金部分も未払いなら、1,500円×1.25×2時間=3,750円。通常賃金部分が既に支払われている場合の追加額は、支払済み賃金を確認して計算します。法定休日労働なら35%以上、深夜労働には別途25%以上の割増が必要です。
※変形労働時間制の時間外労働は、①日単位、②週単位、③変形期間全体の順に、同じ時間を二重計上せず判定します。具体的な計算は当初の勤務表と実績によって異なります。
4.代わりに休ませた日は「会社都合の休業」?
適法な振替休日であれば、その日は休日となり、原則として会社都合の休業にはなりません。一方、振替が成立せず、もともと勤務日だった日を会社が一方的に休ませた場合は、労働基準法26条の休業手当(平均賃金の60%以上)や、労働契約に基づく賃金全額の支払義務が問題になることがあります。単に「休ませたから相殺」とは扱えません。
5.裁判例から分かること
JR東日本(横浜土木技術センター)事件(東京地裁2000年4月27日判決・労働判例782号6頁)では、変形期間開始後の勤務変更を広く認める規定の具体性が問題となりました。勤務変更の事由が抽象的で、従業員が変更を予測できない包括的な規定は、労働時間の「特定」の要件を満たさないと判断されています。勤務変更の可否には裁判例上の議論もあるため、安易な事後変更は避ける必要があります。
6.企業が確認したいチェックリスト
□ 変形期間開始前に勤務日・各日の時間を確定・周知している
□ 休日振替の規定があり、振替日を事前に指定・通知している
□ 法定休日の確保、36協定の要否を確認している
□ 変更前後の勤務表と理由を保存している
□ 日・週・変形期間全体で割増賃金を再計算している
□ 休ませた日の賃金・休業手当の扱いを確認している
